>> 技術エッセイ                    小波盛佳

 日本では,知恵に対して対価を支払う意識が希薄であるために,技術者といえども組織の「からくり」なしには,なかなか,正当な人件費が稼げません。 それがこの不況でさらに厳しい状況になってきています・・・・・。 というような深刻な問題にも少し触れながら,技術屋をやってきた筆者の長年の思いを,そこはかとなくつづります。記事タイトルにある数字は発表日でなく、アイデアのオリジナルの日付です。

2003年09月13日   
2005年01月14日追1 

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目次

161) OJT教育の効果 2002.2
141) 世の流れと学びの姿勢 2000.5
145) 見積と称する基本プロセス検討2000.10
145-2) 自分のものとして内容を理解すること2000.10
135) 企業における単位操作の教育 1999.11
164) 価格公開で経費節減 2002.5
165) 地方の安くていいものを 2002.6
166) 技術者も顧客とのつながりを大切に 2002.7

161) OJT教育の効果 2002.2

 技術系基礎教育ということで,OJTとOFF-JTを行ってきている。 OJTは教育対象者に対して教育担当者を決め,年間2,3回,効果についてのレポートを書かせている。 対象者と担当者の双方が感想を書く欄もある。 さらに,教育部署(専任ではない)はコメンテーターとしてチェックする役目を負っている。 教育部署といっても,開発などの仕事が主務である身にしてみればこれがかなりの負担になる。 記入する字数は少なくしてあるが,教育効果を何らかの形で評価し,教育担当者の労をねぎらい, 教育対象者のやる気を引き出すことに頭を捻って書いている。

 やはりというか,かなり多いのが担当者が忙しすぎてあまり教えてもらえないという不満である。 たいていの場合は,
「親の心子知らず,遠くからでもずっと気にしているんだよ」
といったようなことを書く。
「教育システムと関係なく,周りの誰でもいいから捕まえて自分からつかみとるんだ」 とも諭している。そうして,担当者には,
「しっかり,みてよお」
と伝える。

 教育担当者が仕事で疲れて,教育としてあまり面倒をみきれないことも事実であろう。 それでも,担当者と対象者は,お互いに理解しあえるような人間関係を作っていって欲しいと願う。

141) 世の流れと学びの姿勢 2000.5

 世はITの時代という。 我々の進めてきたケミカルエンジニアリング業界は,石油化学を始めとした従来型の化学分野における仕事の減少が顕著である。 一方,ITに代表されるソフトウェアの分野は大きな進展を見せている。 しばらくの間は,いまだ想像もつかないような幅広い分野でデータベース化と通信のブロード化が進んでいる。 これまで科学技術の進展に推進役の自負を持ってきた我々団塊世代ではあるが,その感覚では,想像もつかない広がりが,これから生まれるのかもしれない。

 この数年は,後で振り返ってみれば産業構造の劇的な歴史的転換点にあったということになるのだろうか。 もしそうだとしても,我々はそれに翻弄されずに生き抜いていかなければならない。 若い人たちはそれをどう感じて,これからの自己啓発を考えているのだろうか。

 新しい発想や新しい分野について自発的に学ぶ姿勢が,今ほど必要とされている時代はないだろう。いくら企業が教育に力を入れても,その感覚はなかなか教えられない。 いや,お仕着せの教育に力を入れれば入れるほど,逆に影をひそめるように感じる。 技術者の将来像などについて,若手技術者の自発的な勉強会などが切に望まれる。

145) 見積と称する基本プロセス検討 2000.10

 プラント設計の最も重要な部分は基本プロセスの検討である。基本的なプロセスが決定すれば後は組織の流れに乗せることができる。 建築分野では,その基本設計に相当する作業を設計会社が対価を得て行う。 ところがプラント設計の場合は,見積作業の名目でそれを無料で行うことが多い。 顧客の側からも,安易に「予算申請のために,何でもいいからとにかく案を作ってもらいたい」といった雲をつかむような話だってある。 総額が数億になるほどの仕事であれば,見積のための概念設計といっても,百万円単位の人件費がかかる。 職業人の知恵を借りて,そのために1円も支出しないというのは,なんとひどい弱い者いじめの社会システムかと思う。

 日本のプラントエンジニアリング会社の多くは親会社である化学会社の人減らしが契機となり,分離独立して発足した。 建築設計業界は専門技術者集団が旗揚げし,行政に独占業務として認めさせてその地位を確保してきたが,それとは生い立ちが違う。 とにかく仕事のないところから始まっている。 仕事をもらうためにはとにかく見積を戴かなければ難にも始まらない,という事情を未だに引きずっている。 それがこの卑屈とも言える関係の一つの要因になっているように思う。 化学会社から分離独立した中堅のエンジニアリング会社のなかで, 私の在籍している会社のように長年の間,親会社グループ外の仕事が20%以下で推移してきたところは極めて少ない。 大半が親会社グループ会社の仕事以外では仕事をもらううえで大変に苦戦しているというのが実状である。

 プラントの見積作業がなぜ無料なのか。欧米では,この無料奉仕は存在しない。 そもそも,日本では,人が考える作業に対して報酬を支払うという慣習が乏しい。 専門家の人件費に対する正当な報酬を計算すると,一般に考えられているより意外に高くなってしまう。 大抵は,人件費以外のものに隠されていて表面化しないだけである。 しかし,経営コンサルタント業界などでは,高額の報酬がストレートに支払われるようになってきている。 不況によって逆境を迎えた感はあるが,じわりと,その専門家の知恵に対するコストが認知されるようになってきた。 プラント設計会社の見積における検討作業について,設計コンサルタント料の協定を行っている建築設計業界を見習えないものか。  因みに,(社)日本粉体工業技術協会では,無料での実施が一般的だったメーカー実験を有料とする申し合わせをしているという。

145-2) 自分のものとして内容を理解すること 2000.10

 見積を依頼するときの設計指示の出し方には,人によって大きな差がある。 一般に,見積を依頼する側の専門家が減っているためか,ほとんど資料を渡さず,見積と称して多くの会社に何回も検討させることがある。 その過程で他社の資料を何のためらいもなく競争相手に渡してしまうことまである。 そのために発注側の仕様をあらかじめ検討することもなく,また仕様の比較などのとりまとめでさえ,あなたまかせの成り行き次第ということがある。 そういう体制はおかしい。中立のコンサルタントにまとめさせるというような仕組みを考えないと,なれ合いの温床にすらなりやすい。

 翻って,エンジニアリング会社のエンジニアも油断すると,メーカー,業者に対して同様な立場をとりがちである。 しかし,プロセスエンジニアを自認するのであれば,そういった態度は避けたい。 知識を持ち合わせていないプロセスや機器が対象であっても,顧客の引き合いに対して,可能な限り内容を理解し,アイデアを上乗せして引き合いに出したい。 さらに引き合い先のアイデアを引き出すような打ち合わせを行って仕様を固めていく習慣を忘れないようにしていきたい。

135) 企業における単位操作の教育 1999.11

 化学工学は,一般にあまり知られていない分野であるが,多くの分野のプラントを設計する上で基本となる役割を持っている。 その中で中心となる単位操作と呼ばれる物質の取り扱いの各種の方法(物質移動・エネルギー移動を基本とする)は基礎的な学問であるといえる。

 その化学工学を教える昔年の化学工学科の多くが名前を変えて,物質工学科や化学システム工学科,物質化学工学科などになっている。 しかし,それは名前だけではない。 最近の化学工学関係のカリキュラムはかなり変化している。 環境,バイオ,生命工学などの範囲が広くなった分だけ,化学工学の単位操作に関する勉強が減っている。 物質工学全般の中で,単位操作の一部が必須から選択科目に変わっているところもある。

 この変化は,基礎的な研究に関する予算が付かなくなり,話題性のある応用分野を手がける研究者が多くなったことも一因である。 そのうえ,講義の時間自体がかなり減っていることもあって,昔のように時間を掛けて勉強することは少なくなってしまっているらしい。 プラントの設計を始めとする多くのエンジニアリング会社にとって,単位操作を基礎とする化学工学は欠かせない。

 そこで,企業では,OJT(On-Job-Training)はもちろん,入社初期の基礎技術教育として,そういう事情を勘案したOFF−JT教育を 考慮しなければならないのが実状である。 もっとも,昨今,企業で教育をていねいに行わなければならないというのは,他のたいていの分野で同様に見られる事情のようではある。

164)  価格公開で経費節減 2002.5

 経費節減のアイデアを出すようにということで、次の提案をしました。

 会社で使用している事務用品のうちの、少なくとも高額品の購入価格や水光熱費などの実体を、社員に公開するというのは,効果がありそうです。 単価だけでもよいですが,項目ごとの支出総額が分かればなお結構でしょう。

 物の値段を知れば,節約する気持ちが出やすくなります。 また,他の安い購買方法を提案する人も出るでしょう。 極端な話,事務所の家賃を知って,「こんなに安い物件もあるよ」という情報があるかもしれません。

 効果の出ることははっきりしています。 ただ、高いかもしれない買い物をしてきた担当者達の面子が損なわれる恐れがあります。 そうならないために、とりあえず一年間は、公開するぞという掛け声を掛けておいて、次の年度で公開するというのはどうでしょうか。きっとその公開予告の一年だけで相当の経費削減になると思いますよ。

 最近は、経費節減コンサルタントとして、企業などにアドバイスしてくれる会社もあるようです。

165)  地方の安くていいものを 2002.6

 九州地区など地方の物価は、ものにもよるが、関東に比べてかなり安い。 経済産業省との共同研究である南九州での地域新生コンソーシアム事業では、現地の業者に依頼した電気計装の設計や工事などで低価格が目立った。

 製作機器もかなり安いようだ。 ただ、高度な技術を要求するものでなければ、という条件がつけられる。 たとえば、機械部門や化学部門の技術士がほとんどいないことに現れているように、土木建築・上下水道とそれに関する設備以外での経験が、一部を除き、あまり多くない。 そのなかで、半導体工場などの先端的な仕事で力をつけてきている企業もある。 業者選定でよく吟味すれば力を発揮してくれることは間違いない。

 実際に、南九州のコンソーシアムで今回採用した業者の仕事の仕上がりも上々であった。

166) 技術者も顧客とのつながりを大切に 2002.7

 顧客と顔を合わせることは、複合的な効果をもたらす。 世の中の役割が分担され、プラントのエンジニアリングでも営業担当と技術者が分業して技術者が顧客との接点を持たないシステムになりがちなのは、問題である。

 技術者が訪問すれば顧客は喜び、安心する。 本質的な課題や問題点について、本音を出して詳しく説明したりもする。 そこで,技術者が出張するついでに,営業と一緒に,出張先顧客の他の部署および近くの会社を訪問することを奨励してはどうだろうか。

 できれば何かのプレゼンテーションの種を持っていく。 思わぬところで仕事の引き合いを受けて受注することもあろう。 顧客との接触を大事にし,課題をもらうようにすれば,若い技術者の技術力も向上する。立場の違う人から新しいヒントを得ることもあるだろう。 なにより、刺激を受けることで仕事の意欲が高まり、気力も充実する。

 また、顧客の担当者とのつながりがある程度できると,トラブルが起こっても顧客からクレームとして攻撃的に扱われることがなくなり,冷静な態度でうまく折り合いがつけられるようになる。 そうすれば無駄な争いが避けられ、双方の企業の利益にもつながる。



(こなみ もりよし)


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